ツチノコ温泉へようこそ 福音館書店

ある日、ツチノコらしきものを見つけた小学五年生の周一、恭介、凛太郎。

山間のさびれた小さな町は、これを観光に利用しようと上へ下への大騒動になります。

周一たちも、地元の新聞からの取材やTVの出演依頼まで受けてちょっとした有名人に。

けれども、病気で急死した周一の本当の父親に代わって、家にやってきた新しい父親の誠司さんは、そんな子どもたちの様子を心配そうにながめています。

母親と結婚するまでは好きだったはずの、誠司さん対する複雑な感情。

周一や恭介とは別の中学を受験するという、凛太郎との微妙な心のすれちがい。

クラスメイトの活発な少女、小雪への、初恋と言うには幼すぎる思いなど、思春期を迎えつつある少年の繊細な心の動きが、落ち着いた筆致で描かれ、読者を物語の世界へ引っぱります。

やがて、誠司さんの予感が当たり、周一たちは、ネットで中傷されたり、無言電話に悩まされたりと、思いもよらない状況に追いこまれていきます。

けれども,そんな最中に、人間たちのちっぽけな営みをあざ笑うかのように、バケツをひっくり返したかのような恐ろしい大雨が降ってきて・・・。

小さな田舎町におこったツチノコ騒動を通して、現代社会がもたらす複雑な問題と、その中を生きる子供たちの成長と自立のひと夏を鮮やかに描いた物語。

巻末には、楽しい「ツチノコ音頭」の楽譜や振り付けが、イラスト付きで掲載してあります。