一〇五度

著者:佐藤まどか 絵:田中寛崇(あすなろ書房)

中学三年生の大木戸真が、都内の中学校に編入してくるところから物語ははじまる。

最初の自己紹介で、「好きなことはイス」と答えて、みんなから笑われてしまう真。

正直に言わなければよかったと後悔するが、彼が人なみ外れてイスに入れこんでいるのは本当だ。

真の祖父は、今でこそ脳溢血の影響で介護老人のようななりをしているが、現役時代は、有名企業をもうならせるほどのイス職人だった。

そんな祖父に影響されてか、真のイスへのこだわりはかなりのもの。

けれども、真の父親は、トップレベルの大学への進学を息子に求め、将来は一流企業のエリートや官僚になることを強制する。

そんな父親に反発しつつも、とうてい腕力ではかなわない真は、体が弱くいつも親から甘やかされている弟に嫉妬しながら、悶々とした日々を送る。

そんなある日、女子でありながらスカートではなくスラックスをはいた奇妙な少女、早川梨々が、真の前に現れる。

となりクラスの変わった人物として、周囲から浮いた感のある梨々だったが、なんと、彼女は、かつて真の祖父と腕を競いあったイス職人の孫娘で、真以上にイスへのこだわりを持っていた。

はじめこそ、距離を置いていた二人だったが、おたがいのイス愛を知るや、たちまち意気投合。

中学生では、いまだだれも出場したことのない、「全国学生チェアデザインコンペ」に合同で挑戦することになる。

優秀な大学生や専門学校生たちが参加する中、はたして、真と梨々の作品は、彼らを相手に勝利をおさめることができるのか?

十四歳の少年少女のゆれる心と、「デザインコンペ」にかける熱い思いが、深い感動となって読者を物語の世界へと導きます。

著者は、イタリアで活躍する本職のプロダクトデザイナー。

そのため、イスに関する記述が実に本格的で、ストーリーに現実感を与えています。

物語のラスト、安易なハッピーエンドに甘んじることなく、どんなに障害があっても、すべてはこれからだと自分たちの進むべき未来を見すえる真と梨々の姿は、進路に悩む中高生の読者にとって大きなエールとなっています。

中学生以上向き。

第64回青少年読書感想文全国コンクール課題図書。