ななこ姉ちゃん

著者:宮崎貞夫 絵:岡本順(学研)

主人公の翔太は、幼なじみのトンビと同じ小学六年生。

二人とも、母親のいないひとりっ子だ。

翔太たちが住んでいる瀬戸内海に面した新居浜市では、毎年10月に四国三大祭りにあげられる「太鼓祭り」が行なわれる。

その「太鼓祭り」で地元の太鼓をかつごうと、3年前に大阪へ出て美容師の見習いをしている、ななこ姉ちゃんが帰ってきた。

けれども、大阪へ出る前にたった1度の万引きで警察ざたになったななこ姉ちゃんは、町の大人たちには受け入れてもらえない。

小さいころから、ななこ姉ちゃんにかわいがってもらっていた翔太とトンビは、泊まるところや食事の心配でハラハラさせられっぱなし。

父親を仕事中の事故で失い、母親から捨てられたななこ姉ちゃんは、中学を卒業するとすぐに美容師の見習いをはじめたが、わずかな収入しかないため、いつも貧しい生活を送っているのだ。

翔太は、ななこ姉ちゃんを嫌っている翔太のばあちゃんが旅行に出かけるすきをねらって、宿なしのななこ姉ちゃんを自宅に迎えようとするのだが・・・。

大人たちの作り上げた理不尽な生活環境の中を、子どもたちは、忍耐とやさしさと小さな知恵で生き抜いていく。

著者自身の実体験をもとに書かれた本書は、再び過酷な時代へと向かいつつある現代の子供たちに向けた力強いメッセージとなっている。

ななこ姉ちゃんにほのかな思いを寄せる翔太の心の動きが、初々しい。

第23回小川未明文学賞大賞受賞作品。