夏の猫

著者:北森ちえ 絵:森川泉(国土社)

小学五年生の海は、運動神経抜群、サッカーが大好きな少年です。

市の選抜メンバーとして、さらなる飛躍を志していた海でしたが、練習試合でのケガがもとで、サッカーをするのが怖くなってしまいます。

長い治療のせいで、サッカーが下手になってしまった自分を、チームメイトたちに見られたくないと思ってしまうのです。

そんな海が、夏休みを利用して、いとこの舟がいる呉の町へ出かけます。

そこには、なっちゃんという、大学受験で浪人中の若い海の叔母さんがいて、海と舟に勉強を教えてくれるのですが、本人は、まったく受験勉強をしようとはしません。

難関大学の医学部を目指していた、成績優秀な人であったはずが、どうして?

しだいに明らかになっていく、なっちゃんの秘密。

海は、生きることに悩んでいるのが、自分たち子どもだけではないことに気づいていきます。

作品の随所で登場する「ナツネコ」が、読者を海と彼を取り巻く人々の心の旅にいざないます。

作中で文章になっているわけではありませんが、自分の未来に戸惑う少年たちの姿が、旧日本海軍の母港であった呉を舞台に描かれることで、未来を選べなかった太平洋戦争当時の若者と現代の若者との対比を行間に読み取ることができます。

物語の後半で、海と舟は、「ナツネコ」が住みかにしている防空壕へ、なっちゃんが子どものころに忘れてきた宝物を探しにでかけます。

ところが、そこで思わぬハプニングに巻き込まれて、生きるか死ぬかの大変なことに・・・。

「才能があるかないかなんて、関係ない。(中略)・・・才能がないのがわかってしまうのが怖い、なんていうのは、他人の目を気にしているだけのことなんじゃね・・・」

なっちゃんの言葉が、サッカーから逃げようとしていた海のわだかまりを溶かしていくラストに、著者からの子どもたちへのエールが込められています。

夢を追い求めることの大切さがさわやかに伝わってくる、この夏いちばんのお勧めの一書。

平成29年度静岡県夏休み推薦図書。

第35回静岡県なつやすみ読書感想画コンクール指定図書。