小学五年生の香枝の住む町には、白鳥たちのいる湖がある。
もともと、オーストラリアやオランダから連れてこられたものを町の人たちが丹精に飼育し、今では、中国やロシアにまでもらわれていくほどの数になっている。
香枝をはじめ、友達の有紗やそのお母さん、獣医をしている香枝のお父さんやお母さんなど、みんな、白鳥が大好きだ。
ところが、ある日、一羽の白鳥が死んでいるのが発見される。
鳥インフルエンザだった。
近くの養鶏場や人間への感染まで心配される中、とうとう、白鳥たちの殺処分が決定されてしまう。
町のだれにとっても、あまりにも重い決断。
このことをきっかけに、香枝と彼女を取り巻く人々との間に目に見えない亀裂が生じはじめる・・・。
物語は、著者の住む町で実際におこった2011年の事件をもとに書かれている。
殺処分の状況など、当時の様子がそのままに描かれているため、胸がしめつけられるほどのリアリティがある。
しかし、この作品は、そうした暗く悲しい事実の描写だけに終わらない、人間と自然の再生と希望のドラマである。
「帰ってきたんだ」
「うん、帰ってきたんだ」
白鳥たちがいなくなった湖に、カモが泳いでいるのを見た香枝と有紗。
春の訪れとともに、成長した彼女たちを描いたラストに、著者の生命の営みに対する真摯な姿勢が感じられます。