小学六年生の朝井陽架は、植物公園で働くお母さんと小さなアパートで暮らしている。
近くのマンションには、お母さんの妹で漫画家でもある真尋ちゃんもいてくれるから、陽架は、今の生活を寂しいと思ったことはない。
けれども、そんな陽架にも、心に秘めた悩みはある。
ある日、同じクラスの祐樹から、通っている進学塾で佐縁馬という苗字の女の子を見かけたと告げられる。
佐縁馬は、陽架のもとの姓。
滅多にない佐縁馬という苗字の女の子は、陽架の二つ下の妹、未怜に違いなかった。
四年前のあの日、わたしが未怜の手を離して、ひとりで逃げたりしなければ・・・。
突然、お父さんと暮らしているおばあちゃんに連れ去られてしまった未怜。
陽架と未怜、二人の娘を連れてお父さんの家を飛び出してきてしまったお母さんは、おばあちゃんによって未怜を奪われ、結局、取り返すことはできなかった。
お父さんとお母さんが離婚してしまった今となっては、もう、二度と未怜に会えることはないのだろうか?
しかし、仕事のし過ぎで体調を崩した真尋ちゃんの入院によって、事態に変化の兆しが訪れる。
うわ言で未怜の名を呼ぶ真尋ちゃんのために、陽架は未怜に会いに行くことを決意する。
もちろん、お母さんにも内緒で。
けれども、バスと電車を乗り継いで、ようやく再会できた未怜の反応は、陽架が思い描いていたものとは、まるで違っていて・・・。
両親の離婚によって、離れ離れに生きることとなった姉妹の心の動きを、綿密で繊細な文章によって表現した良質な児童文学。
物語は、姉の陽架の目線で描かれるが、対となる未怜の隠された思いが明らかになるにつれ、同じ出来事を別の視点から見ることの大切さを読者に疑似体験させてくれる構成力が秀逸である。
タイムパフォーマンスという言葉が取りざたされる昨今、じっくりと時間をかけて一冊の本を読み解くことがいかに重要であるかを、この書物を通して子供たちに届くことを願ってやまない。