小学五年生の睦子は、お父さんとお母さん、それに、私立中学に通い、勉強もスポーツもできるお兄ちゃんと暮らしている。
「お母さんに似てスラリとした体形で、きれいな二重の目をした」お兄ちゃんは、小さなころから、どこへ行っても褒められるが、丸顔で容姿に自信が持てない睦子は、自分にコンプレックスを抱いてしまっている。
睦子は、自分の名前にも、いい感情を持っていない。
お兄ちゃんは、貴良と書いて「たから」と読む素敵な名前を付けてもらっているのに。
お母さんに、なぜ、自分だけ睦子というありふれた名前にしたのか尋ねてみると、「兄妹、仲睦まじくと思ってね」という、まるで、お兄ちゃんのためにつけたような、軽々しい名前であることがわかってしまった。
「お兄ちゃんは、名前のとおりこの家の宝物なのだろう」
いつしか、睦子は、近所でひとり暮らしをしているお母さんのお兄さん、ハルおじさんの家にばかり出入りするようになる。
自分の家で「面倒くさい」お母さんといるよりも、建築士の仕事をして、いつも家の模型にかこまれているハルおじさんのそばにいる時の方が、ずっと気持ちが落ち着くからだ。
けれども、子供のころから体の弱かったハルおじさんは、ある日、突然のようにこの世から去ってしまった。
仕事で使っていた、たくさんの住宅模型だけを残して。
娘に対して一方的と思える母親や、クラスメイトたちとの関係に傷つき戸惑いながら、しだいに孤立感を深めていく少女の心情が、とうとうと流れる川のような澄んだ文体で語られていきます。
また、母親の側から見た家族の姿も行間からにじみ出ていて、育児にはげむ女性にとっても、読み応えのある内容となっています。
やがて、「睦子」という名前に込められた本当の意味が明かされていきますが、そこに、「死」というものを見据えた作者の家族への思いが重なり、物語に重厚感を与えています。
小学校高学年から中学生以上向き。
「雷のあとに」という題名が、読み終わった後に余韻となって胸に響く、新時代の幕開けにふさわしい第45回日本児童文芸家協会賞受賞作品。