著者:宮島未奈 絵:トミイマサコ(小学館)
「ねえ、あなた。平安時代に興味ない?」
「はあ?」
高校生活最初の日、入学式後の教室で突然知らない少女から声を掛けられる主人公の栞。
かなり感じの悪い反応をしてしまったと、あわてて口を押さえるが、あまりにも唐突な問いかけに返す言葉が出ない。
これが、牧原栞と平尾安以加の最初の出会いだった。
平安時代に興味があるかないかと言われたら、ないとしか答えようのない栞に、安以加は、たたみかけるように訴える。
「あたし、平安時代が大好きなの!」
この直球少女の勢いに押されるようにして、栞は、安以加の掲げる平安部結成に向けて翻弄されることになる。
平安時代になんて、まったく興味がないのに?
物語は、栞と安以加の二人を中心に、高校では楽な部活に入りたいという元サッカー部の大日向くん、百人一首部の幽霊部員だった明石さん、そして、何をやってもオーラを放つ超イケメンの光吉さんを交えテンポよく進んでいく。
平安の心を学ぶという、とりとめのない部のスローガンに、初めは面食らっていた栞だったが、仲間が増えていく中で、しだいに平安部の活動にのめりこんでいくようになる。
物語全体を通して、とにかく個性的なキャラクターが多い。
そして、悪い人物がひとりも出てこない。
初めはとっつきにくかった人たちも、ラストに向けて、栞たちを応援してくれる存在になっていく。
こんなにうまくいくわけがないという感想で片づけるのは簡単だが、そんな批判を押し流してしまうほどの勢いが文章の隅々からあふれ出ている。
「成瀬は天下を取りにいく」で2024年度本屋大賞に輝いた著者の、怒涛の青春サクセスストーリー。