ほころぶしるし

著者:川上佐都 絵:かない(ポプラ社)

高校を休んで急な家族とのバスツアーに出かけた奈央は、立ち寄ったサービスエリアで、ねぎまきを食べている同い年の少年と出会う。

こちらは、チキン竜田バーガーをほおばりながら、なぜか少年のことが気になる奈央。

少年も、奈央のことが気になるようで、じっと視線を送ってくる。

ちょっと変わったシチュエーションの出会いから始まる二人の関係。

けれども、この時から奈央の中で少年に対する恋心はふくらんでいく。

そんな奈央の思いが届いたのか、二人は、偶然にも地元の図書館で再会を果たす。

少年は、「陸」と名乗った。

このまま淡い恋愛ストーリーに発展していくのかと思ったのもつかの間、物語は、奈央の親友である千恵里が陸の写真を見てつぶやいた言葉「これ、君津じゃない?君津睦生」という一言で全く違う展開を見せる。

君津睦生とは、小学校時代の同級生の名。

そこには、奈央にとって、後ろめたい思い出がある。

はたして、千恵里が言うように、陸は本当に君津睦生なのか?

容姿は、当時の君津睦生とは似ても似つかない陸に、奈央の複雑な思いは募っていくが・・・。

主人公をはじめとする高校生たちの日常の所作が、非常に生々しくリアリティを持ったものになっている点に注目したい。

気取ることのない人物描写は、読者に物語の世界観に浸ることを容易にしている。

複雑な人間関係において、傷つける側と傷つけられる側のコントラストが鮮やかに浮かび上がり、そこに主人公の自責の念も加わって、物語に重厚感をもたらせているが、けっして重苦しいだけの作品になっていないところが、本書の特徴と言えるだろう。

結局、過去の過ちに向き合いきれない千恵里だけが、置いてけぼりを食った印象が残るが、それも悪い読後感とはなっていない。

怒り、喜び、戸惑い、そうした十代のみずみずしい感性が、読みやすい文章によって実にしっかりと表現されている。

中学生以上向き。