著者:魚住直子 絵:堀川直子(講談社)
瀬戸内海の島で普通科の高校に通う拓海は、ある日、祖父のみかん畑で見なれない少女と出会う。
「みかん、好き?」と唐突にたずねてくる少女。
「私は大好きなのじゃ・・・」
少女の名前は、長谷川ひなた。
拓海の祖父の作るみかんが大好きで、東京からやってきたという。
それだけでも、風変わりだと思う拓海だったが、なんと、ひなたは旅行で来ていたのではなく、祖父のみかんのために、拓海の通う高校をわざわざ受験してきた特進科の生徒だった。
それからというもの、事あるごとに祖父のみかん畑にやってくるひなたにつきあって、畑仕事を手伝わされる拓海だったが、虫が苦手なこともあって、何をするにもビクビクしてばかり。
そんなある時、学校で問題児とされている柴と、ひなたの間でもめ事がおこり、その間に割って入った拓海は、ひなたと気まずい雰囲気になってしまう。
いつものように、みかん畑にやってこないひなたを、ひとり、心配する拓海だったが・・・。
瀬戸内海の美しい自然を背景に、島が好きになれない少年と、みかんが大好きな少女の、ちょっと噛み合わない日々を描いた本作は、シリアスでありながら、どこかユーモラスでもあり、読者の興味を最後までつかんで離さない。
おかしな方言を連発するひなたは、浮世離れしているようにも見えるが、その内面には、現代の高校生らしい心の葛藤を持っている。
家庭環境が影響して、何かとトラブルメーカーとなっている柴は、見かけによらず、みかんに対して一定の哲学を持つまじめな部分を兼ね備えている。
そんな個性的な二人にふりまわされながらも、拓海は、「すごいスピードで変わりよる」という祖父の言葉どおり、知らないうちに、島の生活が好きになっている自分に気づかされる。
「みかん、好き?」という題名が、読後に切ない感動となって胸にしみわたる甘酸っぱい青春小説。
嫌味のない登場人物たちが、いい味わいを醸し出し、読者を温かな気持ちにしてくれます。
中学生から高校生向きですが、小学校高学年から大人まで、幅広い世代におすすめの一書です。