著者:佐藤いつ子 絵:丹地陽子(KADOKAWA)
五人の中学生たちが織り成す、合唱コンクールをめぐる青春ストーリー。
それぞれの立場から見た日常生活が章を分けて語られていくが、主人公は、冒頭から登場する早紀。
思うように自分の主張ができない、線の細い感じがする吹奏楽部員の少女だ。
そして、そんな早紀と相対するように、同じく吹奏楽部の天才肌で絶対音感を持っている幼馴染の音心。
物語は、この二人に加え、バスケットで抜群のセンスを示しながらも、早紀の透き通った声に魅了される涼万と、その涼万に思いを寄せる女子のリーダー格で音痴であることをコンプレックスにしている晴美。
さらに、その晴美から目が離せない、やはりバスケット部で涼万に対抗心を燃やす岳と、片思いの連鎖は続いていく。
早紀も例外ではない。
がさつで意地っ張りではあるが、躍動感に満ちた岳に淡い恋心を寄せていくようになる。
そんな複雑に絡み合う人間模様の中、初めは団結に事欠いたクラスも、しだいに早紀を中心としたまとまりを見せていく。
ところが、合唱コンクールを目前に控えたある日、早紀に思わぬ事態が襲い掛かって・・・。
物語の終盤、数々の困難を乗り越えた主人公たちが、それぞれの思いを乗せて奏でる合唱曲「ソノリティ」。
思春期を迎えた多感な少年少女たちの心の機微を、これでもかというほど緻密に書き上げた筆力は、読者を物語の世界へいざなうのに十分なインパクトを放っている。
終盤、岳に告白する早紀の唐突な行動に、やや意外性を覚える読者がいるかもしれないが、それも、彼女の心の成長を表すひとつの証しとして納得ができる。
頼りにならない担任の代わりを務める音心だけが、異次元の存在として描かれている点もおもしろい。
中学生以上向き。