著者:戸部寧子 絵:田中海帆(フレーベル館)
小学五年生の星野トモルは、お父さん、お母さんと暮らしている、ひとりっ子の野球大好き少年だ。
春の選抜高校野球大会で海色のユニフォームを着た学校がテレビで紹介されているのを見て以来、自分も同じユニフォームを着て浜辺で練習することを夢見ている。
だから、夏休みに田舎のおばあちゃんの家に出かけることになった時、勝手に海沿いにあるものと思い込んでいたトモルは、実際のおばあちゃんの家が山の奥深くにあるのを見てがっかりしてしまう。
けれども、気を取り直して、おばあちゃんの家から続く坂道を登ったところにある公園へと野球の練習に出かけたトモルは、そこで自分より年上の見知らぬ少女と出会う。
無敵の笑みを浮かべながら、「めぐる」と名乗る髪の長い少女に、なぜか親しみやすさを覚えるトモル。
でも、怒ると怖いし、いつも上から目線でものを言ってくるし、なかなか強烈な個性を持つ「めぐるちゃん」にトモルは振り回されっぱなし。
そんな「めぐるちゃん」は、やがて、トモルの夢の中にまで出てくるようになる。
夢の中の「めぐるちゃん」は、現実の「めぐるちゃん」と違って、とっても食いしん坊だ。
それに、素人のくせに、野球がメチャメチャ上手い。
いったい、「めぐるちゃん」は、どこの子なんだろう?
なぜ、トモルの前にばかり姿を現すのか?
それに、トモルには、ひとつの疑問がある。
どうして、お母さんは、おばあちゃんの家に来ようとしないんだろう・・・?
トモルの子供らしい無垢な視線が、ひと夏の景色を鮮やかに描き出す。
やがて解かれていく「めぐるちゃん」の謎に、切なさとやさしさ、それに家族を思う深い感情が込み上げる。
現実と幻想を巧みに織り交ぜたストーリー構成と風景の描写力に、著者の想像力と感性の豊かさが表れている。