主人公の上杉昴「すばる」は、小学六年生の女の子。
けれども、名字の上杉も名前の昴も精悍で勇ましい感じがするために、よく男の子に間違われる。
あまりにも間違われるから、髪はベリーショート、服も青や黒しか着ないことにして、男の子で通した方が楽だと思ってしまっている。
そんな昴には、自分を産んでくれた本当のお母さんがいなかった。
昴のお母さんは、彼女を出産する時、命を引き換えるようにして亡くなってしまった。
今、いっしょに生活している聡子さんは、新しいお母さんで、その事実を知ったのは、妹の花野が生まれてからのことだった。
そんな生い立ちから、昴は、家族の中で自分だけが異質なのだと感じている。
けっして、聡子さんからつらく当たられたことなどないのに、このままでは、本当のお母さんがかわいそうだという思いが、どんどんふくれあがっていく。
そもそも、自分を産んでくれたお母さんは、どうして、昴なんて男の子みたいな名前を娘につけたのだろうか?
本当は、女の子ではなく、男の子が欲しかったからだろうか?
そんな疑問を胸に、ある日、昴は、産んでくれたお母さんの故郷である長野県の戸川へと旅立つ。
戸川は、「星ふる里」として有名な温泉郷で、標高が高く空気が澄んでいることから、夜になると満天の星空をながめられるという。
そこで、紘ちゃんという養護施設で育った男の子や、お母さんの双子の妹だという亜希子さんと出会い、昴は、少しずつ自分の名前に込められた本当の意味に気づかされていく。
作者が在住する長野県の美しい自然を背景に、少女の心の軌跡を描いた良質な児童文学作品である。
劇的な展開や派手なストーリーはないが、人間にとって最も重要な原点となる出生をめぐる物語が静かに語られる構成は、確かな筆致によって読者の心を深く打つ。
乳母車に乗ったまま捨てられていた紘ちゃんの少し特異な性格の描写など、昨今のメディアでありがちな安直なヒューマニズムとは一線を画した創作の姿勢が、文学として高く評価される。
小学校高学年以上向き。