風の神送れよ 小峰書店

小学六年生の優斗の住む長野県神坂田の宇野原地区には、「コト八日」と呼ばれる年中行事がある。

毎年、二月八日に地域の各家を回って疫病神であるコトの神を集め、翌朝、村の外に送り出すというものだ。

絶対に後ろを振り返ってはならないという、不思議な約束事のある「コト八日」。

このような行事は、全国各地にあるとされるが、宇野原地区の違うところは、そのすべてを子供たちのみで行うという点にあった。

今年は、中学一年の先輩で憧れの凌さんが頭取、優斗が補佐役を務めることになっていたが、何かにつけて「めんどくさい」が口ぐせの優斗は気が進まない。

そんな優斗の通う学校には、神奈川県から転校してきたばかりの宇希という少年がいる。

不愛想で文句ばかりの宇希に腹を立てる優斗だったが、彼の転校には、やるせない思いを秘めた深い理由があった。

コロナウイルスの感染拡大によって社会が混乱する中、優斗たちによる「コト八日」への準備は粛々と進んでいく。

四百年にわたって受け継がれてきた伝統を、滞りなく受け継ぐ責任は限りなく重い。

ところが、そんな中、頼りにしていた凌さんがサッカー部の練習で大けがをしてしまい、頭取の役目を果たせなくなってしまった・・・。

信州児童文学会誌「とうげの旗」に掲載された同名作品が、大幅な修正加筆によって現在の物語として生まれ変わった。

長野県の美しくも厳しい冬の自然を背景に、それぞれに悩みを抱えた子供たちの友情と成長が、静かな語り口で描かれる。

「神様なんて、本当にいるのか?」と、伝統行事に対して疑問を抱く主人公が、現実の中でもがき苦しむ仲間たちの姿から、先人たちに思いをはせるようになっていく成長の過程が素晴らしい。

また、事故で父を失い、今また祖父をも失おうとしている柚木という少女の、健気にがんばる姿にも心打たれる。

これは、ただ形としてだけの伝統文化を記述したものではない、その時代、時代を生きてきた人間の魂の継承の物語である。

「前だけ見るんだ、うしろは見ない」

初めて見せた凌さんの涙に、トレードマークの青いタオルを応援旗のように掲げ、降りしきる雪の中を進む優斗や宇希たち。

伝染病によって騒然とする世相の中で、子供たちの懸命に生きる姿が、未来への突破口を切り開く。