ぼくはトトくん

ひまわり薬局は、ひので商店街のすみにある、小さなお薬やさんです。

このひまわり薬局の店先に、十円玉を入れると、波のりのように上へ下へとうごく新幹線ののりものがポツンとおいてありました。

なまえを超とっきゅうの「トトくん」といいます。

トトくんは、日本ではじめて走ったむかしの新幹線のかっこうをしています。

このお店のおじいさんとおばあさんが、まだ若かったころ、お店に来てくれる小さな子どもたちのために、知りあいからゆずってもらったおもちゃ。

それが、トトくんでした。

でも、何年かまえにおじいさんが亡くなり、おばあさんひとりになってからは、お店も閉まっている日がおおくなって、トトくんにのりたがる子も、ほと


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んど来なくなってしまいました。

(あ~あ、つまんないなあ。もっと、みんなとあそびたいなあ)

おなじ新幹線でも、近ごろでは、新しいかたちの新幹線がたくさん走っていることを、トトくんは知っています。

ひまわり薬局のちかくには、ほんものの新幹線の線路があって、店先からも、走っている新幹線を見ることができるのです。

トトくんは、ため息をついて、自分の体をながめました。

ハンドルにもイスにもさびがういてしまって、体をうごかそうとすると、ギイギイ歯車が音をたてます。

これでは、せっかくの新幹線もだいなしです。


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トトくんは、毎日毎日、朝には、学校へいく子どもたちを見おくり、午後には、家にかえる子どもたちに「おかえり」をいいます。

でも、だれもトトくんの声には気づきません。

ある日、トトくんは、自分のまえを知らんぷりでとおりすぎていく子どもたちを見ているうちに、とうとう、がまんができなくなって、「うえ~んっ」と声をあげて泣きだしてしまいました。

すると、びっくりしたおばあさんが家から出てきて、「おやまあ、この子も、とうとうこわれちゃったかねえ」といいました。

泣いているトトくんは、大人からは、お金もいれていないのに、ピイッピイッとけいてきをならしながらうごく、こわれた機械にしか見えないのです。


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つぎの日曜日、近所に住んでいるおばあさんの息子さんが、ひまわり薬局にやってきました。

息子さんは、コンセントをさしこんだだけで、うごきだしてしまうトトくんを見て、「もう、処分するしかないよ」と肩をすくめて見せました。

トトくんは、悲しくて悲しくて、なみだをポロポロこぼしました。

「いやだよお!ぼく、なんにもわるいことしてないよお!」

まだまだ、子どもたちをのせていっぱいはたらけるのに、処分なんて、あんまりです。

けれども、なみだのかわりに流れ落ちたオイルを見て、息子さんは、「今度の日曜日、トラックで引きとりにくるよ」とおばあさんにいいました。


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コンセントをはずされたトトくんは、うごくこともできずに、ヒックヒックと泣きながら、ただ、処分の日をまつしかありませんでした。

 

それから一晩たった、月曜日の朝のことです。

ひとりの小さな男の子が、ふたつのこぶしにぎゅっと力を入れて、道のはんたいがわからトトくんを見ていました。

(だれだろう?まだ、お昼まえなのに、学校はどうしたのかな?)

トトくんは、ふしぎに思いました。

男の子は、目をまんまるにさせて、トトくんにきょうみしんしんのようすです。


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とうとう、あたりを見まわしてから、はねるように、こちらに近づいてきました。

そして、トトくんのいすにポスンッととびのると、ハンドルをにぎって、「ガタガタンッ、ガタガタンッ」とはずむように口ずさみはじめました。

「しゅっぱつしんこう!」

男の子が元気にさけんだ、そのときです。

コンセントをぬかれているはずのトトくんが、とつぜん、うごきだしました。

びっくりして男の子がふりかえると、おばあさんが、トトくんたちのうしろでニコニコしています。

コンセントをさしこんでくれたのは、おばあさんだったのです。


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「いらっしゃい」

おばあさんは、どうしていいかこまっている男の子のあたまをなでて、「ひさしぶりに、トトくんの笑い声が聞こえるわねえ」といいました。

こんどは、トトくんもびっくりしました。

おばあさんには、トトくんの声が聞こえるのでしょうか?

男の子のなまえは、健二くんといいました。

健二くんは、お父さんのお仕事のつごうで、この町にひっこしてきたばかりの一年生でした。

健二くんには、まだ、友だちがいません。

まえに住んでいた町で、たくさんの友だちにかこまれていた健二くんは、この


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町では、なんだかとてもはずかしくて、友だちをつくれないでいました。

健二くんの言葉には、ほんのちょっぴりですが、まえに住んでいた地方の「なまり」があったのです。

それで、学校にいくのがつらくて、とうとう、今日はお熱が出たとウソをついて、休んでしまったのでした。

「そう?それは、さみしいわねえ。お友だちがいないのは、とてもさみしいでしょう。このトトくんもおなじなの」

おばあさんは、学校を休んでしまった健二くんをしかったりしませんでした。

そのかわりに、こんなふうにいいました。

「そうだ。あとで健二くんのクラスの子どもたちがかえってくる時間にあわせ

 

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 て、もう一度トトくんにのりにいらっしゃい。おばあちゃんが、すぐにお友だちをつくってあげるから」

「ほんとうに?でも、どうするの?」

「だいじょうぶ。おばあちゃんに、いい考えがあるわ」

おばあさんは、そういって、にっこりと笑いました。

健二くんは、首をかしげながら、それでも、大よろこびです。

トトくんは、おばあさんは、ほんとうにやさしいんだなあと思いました。

そういえば、このお店にトトくんをつれてきてくれたのも、おばあさんなのでした。

 


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むかし、まだ、トトくんが生まれたばかりのころのことです。

トトくんは、デパートの屋上にあるゆうえんちで、ほかのおもちゃたちといっしょにはたらいていました。

そのころは、新幹線が大人気で、トトくんは、子どもたちのあこがれのまとでした。

けれども、近くにほんものの大きなゆうえんちができて、トトくんのいたデパートのゆうえんちには、お客さんがこなくなってしまいました。

そして、何年かがすぎて、とうとう、デパートそのものが、とりこわされることになったのです。

トトくんも処分されることになりました。


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その時、トトくんをひきとってくれたのが、ひまわり薬局のおばあさんでした。

知りあいのデパートの店員さんから、トトくんのことを聞いたおばあさんは、このままこわされてしまうのはかわいそうだと思って、自分たちの店先にトトくんをおいてあげようと思ったのです。

おじいさんも、大さんせいでした。

こうして、トトくんは、ひまわり薬局にやってきました。

デパートにくらべたら、お店にきてくれるお客さんは、ずっと少なかったけれど、トトくんは、感謝の気もちでいっぱいでした。

「ぼく、おじいさんとおばあさんのために、いっぱいはたらくんだ」


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そう心に決めて、今日までがんばってきたトトくんなのです。

 

健二くんは、一度、家にかえってお昼ごはんを食べてから、ふたたびひまわり薬局にやってきました。

ちょうど、学校から一年生がかえってくる時間です。

「よおし、じゃあ、トトくんにがんばってもらおうかねえ」

おばあさんがコンセントをさしこむと、トトくんは、健二くんをのせてうごきだしました。

やがて、健二くんのクラスの子が、ひとり、ふたりと学校からかえってきました。


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みんなは、トトくんにのっている健二くんを見ると、うらやましそうに立ちどまりました。

「わあ、いいなあ」

「健二くん、楽しそう」

男の子も女の子も、目をキラキラさせて、トトくんと健二くんにくぎづけです。

けれども、ひとりの男の子がいいました。

「だけど、健二くん、かぜで学校を休んだんだよね?こんなところであそんでるなんて、ずるいよ」

すると、べつの女の子もいいました。


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「そうだよ、健二くんいけないよ」

「先生にいってやろう」

たちまち、ひまわり薬局の店先は、大さわぎです。

すると、すかさず、おばあさんがいいました。

「ちがうのよ。健二くんは、かぜのお薬を買いにきたのよ。でも、お薬をのんだら元気になって、それで、トトくんとあそんでいたのよ」

さすが、おばあさんです。

みんなにせめられて、こまっていた健二くんに、おばあさんは、チラッとウインクしてみせました。

「なあんだ、そうだったのか」


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「健二くん、ごめんね」

子どもたちは、そういって、健二くんにあやまりました。

「ううん、ちがうよ。ぼくは・・・」

健二くんが、ほんとうのことをいおうとすると、こんどは、トトくんがピイイッとけいてきをならしました。

「いいんだよ、健二くんは、なにもいわなくて」

トトくんは、そういってあげたつもりでした。だれだって、つらいことや悲しいことがあるのです。

ときには、そのつらいことや悲しいことから、逃げてしまいたくなることだってあるでしょう。


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でも、たいせつなのは、そんなときには、みんなでその子をまもってあげることなんだとトトくんは思ったのです。

トトくんは、力いっぱい健二くんをのせてうごきました。

すると、まわりで見ていた子どもたちが、「ぼくものりたいな」「わたしも!」といいました。

「みんな、じゅんばんでのろうよ」

健二くんのことばに、みんな、大さんせいでした。

ひとりひとり、子どもたちをのせながら、トトくんは、とてもしあわせな気もちでした。

でも、こうしていられるのも、あとほんのわずかです。


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トトくんは、キャッキャッとはしゃぐ子どもたちの笑顔をながめながら、みんなに、「さよなら」をいいました。

トトくんは、もう自分がこわれはじめていることに、ほんとうは気がついていたのでした。

 

それから何日かがすぎて、とうとう、次の日曜日がやってきました。

おばあさんの息子さんが約束していたとおり、朝から小さなトラックが、ひまわり薬局のまえにとまりました。

トトくんは、ああ、このトラックにのせられて、ぼくはつれていかれちゃうんだと思いました。


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けれども、トラックからおりてきたのは、おばあさんの息子さんではありませんでした。

健二くんと健二くんのお父さんです。

「このまえは、子どもがおせわになりました」

メガネをかけた、やさしそうな健二くんのお父さんが、むかえに出たおばあさんとあいさつをしました。

健二くんも「こんにちは」をいいました。

健二くんのお父さんの話では、健二くんは、学校でほんとうのことを話したのだそうです。

言葉に「なまり」があって、みんなに話しかけにくかったこと。


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それで、学校に行くのがつらくなって、つい休んでしまったこと。

けれども、なにもかも打ち明けたおかげで、健二くんは、クラスのみんなとほんとうの友だちになれたのでした。

「そう、それはえらかったわねえ!」

おばあさんは、健二くんのあたまやほっぺたをなでて、いっぱいほめてあげました。

「うん、おばあちゃん、ありがとう!トトくんも、ありがとう!」

健二くんも、まんまるの笑顔をうかべて、とてもうれしそうです。

「じつは、今日は、おれいにトトくんの修理をしたいと思ってきました」

健二くんのお父さんが、トラックの荷台から工具箱をおろしながらいいまし


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た。

健二くんのお父さんは、自動車の修理やさんだったのです。

トトくんは、びっくりしました。

まさか、さびだらけになったおもちゃをなおしてくれる人があらわれるなんて、思いもしなかったからです。

けれども、健二くんのお父さんは、いっしょうけんめいでした。

自動車とは、ちがうところもいっぱいあるトトくんでしたが、健二くんのお父さんは、ていねいにひとつひとつの部品を洗ったり、こうかんしてくれたりしました。

まもなくして、健二くんのお母さん、それに、クラスのみんなが、ひまわり薬


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局にやってきました。

「わたしたち、トトくんのために、おり紙でお花をつくってあげるね」

女の子たちが、いいました。

「ぼくたちは、トトくんをきれいにぬってあげるんだ」

男の子たちは、ペンキをもってきていました。

こうして、みんなが力をあわせて、トトくんをピカピカにしていきました。

お昼は、みんなでおむすびを食べ、午後になると、いよいよ完成です。

「できたあ!」

修理がおわったトトくんをまえに、健二くんが手をたたいてとびはねると、みんなから、大きな歓声がわきおこりました。


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新しいトトくんは、ほんとうにピカピカの新品のようになっていました。

おばあさんのお願いで、健二くんのお父さんは、十円玉のかわりにスイッチを入れるだけで、だれでもトトくんとあそぶことができるようにしてくれました。

「しゅっぱつしんこう!」

いちばんはじめにトトくんにのったのは、健二くんでした。

今は、すっかり友だちとなったみんなが、「健二くんが、いちばんにのりなよ」といってくれたのです。

うごきだしたトトくんの上で、健二くんは、楽しそうに笑いました。

健二くんだけでなく、おばあさんも、健二くんのお父さん、お母さん、それに


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友だちみんなが、ニコニコしています。

トトくんは、「ぼく、このお店に来てよかったな。今日は、なんて、楽しいんだろう!」と思いました。

「ありがとう!みんな、みんな、ありがとう!」

トトくんの笑い声が、みんなの笑い声にまじりました。

どこまでもすんだ深く青い空には、まっしろな雲がうかんでいます。

お日さまが、「みんな、ずっとずっと、しあわせにね!」そういってくれているかのように、あかるく、あかるくかがやいていました。

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