秋です。空には、いっぱいいわし雲がうかんでいます。
高い青い空にちりばめられた白いいわし雲は、とてもきれいで、見ていて気もちいいのですが、タッくんは、なんでいわし雲って言うんだろうと思ってしまいます。
タッくんは、いわしがきらいです。お母さんが晩ごはんのときに、ときどき焼いてくれるいわしは、苦くて小さな骨があって、とても食べにくいのです。
お父さんは、お酒を飲みながら「やっぱり、いわしがいちばんだなあ」なんて言ってますが、タッくんは、さんまのほうが好きです。だから、いわし雲じゃなくて、さんま雲ならいいのになあと思います。
ある日のことです。タッくんは、お父さんとお母さんといっしょに縁日に出かけました。今日もいい天気で、空には、やっぱりいわし雲がうかんでいます。
すると、どこからかわたがしのあまいにおいがしてきました。割りばしをクルクルとまわしながら、わたがしを作っているおじさんのまわりに、子どもたちが集まっています。
タッくんも、順番をまってわたがしを買ってもらいました。あまくてフワフワのわたがしをなめながら空を見上げると、いわし雲の下にいくつものわた雲が流れていきます。それを見て、タッくんは思いました。
(いわし雲より、さんま雲より、わたがし雲がいいや)
「タッくん、わたがしおいしい?」
お母さんがたずねました。
「うん。でも、わたがしじゃなくてわたがし雲だよ」
タッくんが答えると、お父さんもお母さんも「?」という顔をしました。
あまいあまいわたがし雲。タッくんは、お母さんにもわたがし雲をなめさせてあげながら、にっこりと笑ったのでした。
「お母さん、わたがし雲、おいしいね!」