学校の中にひとつだけ教師や他の生徒たちからの干渉を免れられるところがあるとしたら、それは、保健室だろう。
保健室というのは、辛いテストがあったり、いやな体育の授業があったり、後味の悪いクラスメイトとのいざこざがあったりする学校生活の中で、唯一、そうしたわずらわしさから逃れられるオアシスのような場所であり、言わば学校内の自治独立国家である。
ここでは、上級生も下級生もなく、普段は厳しいクラス担任もきつい言葉を生徒にぶつけることができない。職員室にも似た雰囲気があるが、保健室ほど外部の圧力を寄せつけない場所は、他にはないだろう。
そして、こういう場所には、生徒思いの優しい保健の先生が常駐しているものだが、ソラの通う中学校でも、それは、例外ではなかった。しかも、その保健の先生が絵に描いたような美人と来ているから、男子生徒にとっては、ひそかな人気スポットであることを女子生徒全員が知っている。
この美人の保健の先生、その名を本能寺明美というが、学校では、コーモ先生というあだ名で通っている。なぜなら、保健室の机の上に、国営放送のマスコットキャラのような四角い顔のぬいぐるみが、ちょこんと置かれているからで、それが、本能寺先生のイメージとギャップがあってかわいいということらしい。
コーモ先生は、すらりとした長い足といい、魅惑的な赤い口紅を施した唇といい、容姿はモデルにしてもおかしくないほどであり、実は男性教師の注目の的であるとの噂も立っている。
そんな噂を裏づけするかのように、教頭がぞっこんなのだというまことしやかな話が学校中に広まっていて、事実、保健室に頻繁に出入りする教頭の姿が、多くの生徒たちによって目撃されている。
「やあね、あの教頭、また保健室に入り浸っていたって」
「ウソでしょ?あんな気持ち悪いひげおやじ。コーモ先生、かわいそう」
「やっぱり、わたしたちがちゃんと保健室を見張って、コーモ先生を守ってあげなきゃだよ」
こんな会話がクラスの女子生徒の間でたびたび交わされるのを、ソラは何度も耳にしている。
まあ、他の女子に比べて色恋に疎いソラには、どうでもいいことであるが、実はどうでもいいことではないのを彼女はまだ知らない。なぜなら・・・。
「は~い、お熱はありませんよ。みんな、教室に戻りなさい」
「え~っ、先生、絶対に熱ありますって。ぼくのこの熱いハート、わかりませんか?」
「おれの方が、絶対に熱いって!おまえのは、温泉卵くらいじゃねーか」
保健室では、今日も、コーモ先生と、三年生の男子数名のたわいもないやり取りが続いている。
コーモ先生は、男子生徒たちの熱烈なラブコールを受けて、それを片手間で覆い尽くして投げ飛ばすほどの大人の愛情をふりまいている。
「はいはい、わかりました。坊やたちは、早く教室に戻りなさい。でないと、教頭先生に言いつけちゃうわよ」
「うへえっ」
教頭先生と聞いて、思わず吐き出しそうなジェスチャーをする男子生徒たち。
しかし、間が悪かった。彼らの背後には、その教頭先生が、いつの間にやってきたのか、音もたてずに立っていたのだ。
「こらっ、何が『うへえっ』だ!おまえたち、用もないのに保健室に入り浸るな!どこのクラスの生徒だ?」
「げっ、教頭先生!」
「クラス担任はだれだ?後でこってり絞ってやるからな!」
「ごごご、ごめんなさ~い!」
男子生徒たちが一目散に逃げだすのも無理はなかった。
この教頭、コーモ先生にぞっこんだという噂もさることながら、他にも、陰湿な生徒いびりをすることでも有名だった。教師の名を借りた悪魔と呼ばれたり、夏目漱石の「坊ちゃん」にちなんで「赤シャツ」の異名も持っていたりする。
年齢は、二十代と思われるコーモ先生よりずっと上。恐らく五十代だろう。そんないい歳をしたおっさんが、何かと理由をつけてコーモ先生のもとへやってくるというのは、「赤シャツ」同様、気色悪い以外の何物でもないが、実際は、こうしてコーモ先生目当てで保健室にやってくる悪童どもを追っ払っているというのが、本当のところだ。
「教頭先生、ありがとうございます。もう、本当にあの子たちしつこく来るんですよ」
「担任から言って聞かせましょう。あまりひどければ、親御さんを呼びましょうか?」
と、まあ、ここまでは、普通の教師同士の話である。会話の内容ががらりと変わったのは、教頭が保健室の扉を閉めた直後だった。
「先日の地震、思った以上に被害が少なかったようだな。黒いコスチュームで現れた奇妙な男が、人命救助に尽力したと、もっぱらの噂だが」
「はい、パットマンと名乗っているようです。この星には存在しないテクノロジーを使って、瓦礫を持ち上げるほどの大活躍だったとか」
間違いのないようつけ加えると、最初に言葉を投げかけたのがコーモ先生で、答えたのが教頭である。
二人は、中学校の教員を装ってはいるが、その正体は全くの別人。そう、この本能寺明美を名乗る保健室の先生こそ、老師様の言っていた魔女メデューサなのだ。そして、彼女の問いにうやうやしく答えた教頭は、メデューサの下僕のような存在で、本当の名はジンドという。
ちなみに、メデューサというのは本名で、「魔女」は、老師様が勝手につけているだけであることも加えておこう。
ただし、メデューサがやろうとしているのは、魔女も驚くほどのとんでもないことである。それについては、二人の会話からもわかってくる。
「まったく、重力兵器というのは、使い物になるかどうかわからぬ代物だな。効果のほどが定かでないから、開発途上で中止になったと聞くが」
「まあ、相手をせん滅させるだけなら、火力による直接的な攻撃の方が手っ取り早いですからね。でも、それでは、困るのでしょう?」
「うむ。地表を焼き尽くし、不毛な土地にしては意味がないのだ。我らの目的は、この星への移住なのだから」
「つまり、人類だけを抹殺したいので?」
「そういうことだ。それには、この星の環境を人間が住めないものにしてしまえばよいのだ。細菌やウイルスを使う手もあるが、あれは思わぬ副作用があるからな。多少、時間はかかるが、重力兵器の実験を繰り返して効果を見極めるしかないだろう」
この二人、老師様から警戒されるくらいだから、当然のごとく宇宙人である。つまり、単刀直入に言って、地球を侵略しに来ているわけである。
ただ、その侵略方法というのが、町を覆い尽くすほどの巨大な宇宙船で攻めてくるとか、地球上には存在しない凶暴な生物を町に解き放つとか、そういう、映画やアニメで描かれるようなものではない。
重力兵器という、なんとも御大層な道具を使って、地球の自然環境に変化を加え、人類という特定の種族だけを排除しようとしているのだ。それも、たった二人だけで。
「それにしても、そのパットマンとかいう男、いったい何者だろう?この星以外からやってきたとしたら、我らと同族の者ということか?」
「さあ、そこまではわかりませんが、注意した方がよさそうですな。地球人の科学力なら、どんな反撃も難なく封じられますが、同族となると、厄介なことになるかもしれません」
「ふむ・・・」
メデューサは、何事かを考えるような目で、机の隅に置かれたコーモ君に目をやった。四角い顔に四角い口、まんまるお目めのかわいい容姿とは裏腹に、ギザギザの歯をむき出しにしているところが、ちょっとこわい。
その向こうにある窓から校庭に視線を落とせば、体育の授業中の生徒たちが、キャッキャッと歓声をあげながらドッチボールをやっていた。
メデューサの目に、残忍な光が宿った。
「のんきな連中だな。もうじき、大災害がこの町を襲うというのに」
「次のターゲットをこの町にするおつもりで?」
「ああ、そのパットマンという邪魔者をこの目で見てみたいのでな。場合によっては、そやつから抹殺しなければならないかもしれぬ」
「となると、ちょいとばかり、本気を出さなければなりませんなあ」
「ジンドよ。次は水攻めで行くぞ。かつて経験したこともないような大嵐をおこすのだ。重力兵器の可能性を、様々試しておきたいのでな」
「へへへ、メデューサ様の仰せのままに。この国の連中は、あきれるほどの平和ボケですからね。密かに事を運ぶには、もってこいですよ」
自然災害が宇宙人の手で引き起こされ、しかも、それによって人類が滅亡するだなんて、だれが信じるだろう。
しかし、神話や宗教の世界では、例えばノアの箱舟伝説のように、神が仕組んだ巨大災害によって人類が絶滅の危機に立たされた話がいくつも残されている。
ともかく、メデューサたちにとっては、人類が邪魔なのである。それは、人類が地球環境を破壊するだけのガン細胞のような存在と考えているから。移住を果たすには、まず、このガン細胞をひとつ残らず取り除かなければならない。
× × ×
「・・・というわけで、魔女メデューサの目的は、銀河中に散らばった我らが同胞を集めて母星に代わる星へと移住させることなのじゃ。そのためには、先住民が邪魔だということじゃな」
メデューサとジンドが、保健室で地球侵略について策略を巡らせていた同じ日の放課後。
ソラとセイジは、最初に老師様と出会った町はずれの森の中で、くどくどと長い老師様の説明を聞いていた。内容は、メデューサとジンドがしていた会話と、ほぼ一緒である。
「つまり、魔女メデューサは、宇宙人ってわけね。魔女なんて言うから、人に信じてもらえなくなるのよ」
口をとがらせて文句を言ったのは、ソラである。
「いやいや、やつは魔女じゃぞ。魔女より性質が悪いかもしれん」
「老師様と同じ星から来たんでしょ?それで、どうして他の星へ移住しようなんて考えるのよ?自分たちの生まれた星があるでしょ?」
「いや、ないのじゃ」
「ない?ないって、どういうことよ?」
「滅んだ」
「・・・滅んだ?」
「木っ端微塵に爆発してしまったのじゃ。愚かな戦争によってな」
「・・・・・」
ソラは、ぽかんと口を開けて、となりにいるセイジと顔を見合わせた。地球のような人の住める星が戦争によって爆発するなんて、SF映画のネタとしても、もはやチープと言っていいだろう。
「それ、本当なんですか?」
「ウソなどついて、どうなる?我らは、流浪の民なのじゃ。生き残った仲間は、銀河中にある知的生命体の住む星へと避難しておる。その星の住民のふりをしてな」
セイジの問いに、老師様は嘆くように答えた。
「じゃあ、魔女メデューサも人間の姿をしている?」
「もちろんじゃ。おまえさんたちの通ってる中学校に本能寺明美という保険の先生がおるじゃろ?あやつが、魔女メデューサじゃ」
「ほ、ほえっ?」
話が広大な宇宙から、急に手の届くような小さなスケールに切り替わった。
「それに教頭も、その仲間じゃぞ」
「は、はにゃ?」
話が意外すぎて、ソラもセイジも埴輪のような顔になってしまった。
小さいなんてものじゃない。老師様の話は、どこまでが本当でどこからが作り話なのか今ひとつわからないのだが、確かなのは、いつも聞き手の予想を裏切るということだ。
「だから、わしはこの町へやってきたのじゃ。本能寺明美の動きを探るためと言えば、納得できるじゃろう」
確かにそうだ。その通りかもしれない。それなら、老師様がこの町にやってきた理由に説明がつく。
「だったら、直接、本能寺先生と話し合えばいいじゃない。回りくどいことなんかしてないで」
「そ、それは・・・そうもいかんのじゃ」
「なんで?」
「こっちには、こっちの事情があるのじゃ。プライベートなことには、首を突っ込むな。おまえたちがよく言う個人情報ってやつじゃ」
何がどうプライベートなんだろうとソラは首をかしげたが、とにかくこういうことだ。
老師様のいた惑星(M78星雲と老師様は言っていた。ウルトラマンの故郷でもある。結局のところ、惑星なのか星雲なのかもわからない)は、同族間の戦争によって滅んだ。
生き残った人々は、宇宙へと脱出を図り、散り散りとなって銀河中の知的生命体のいる惑星へと移住した。その惑星の住民に成りすまして。
魔女メデューサは、本当は魔女ではないが、地球から人類を排除して、銀河中に散らばった仲間たちを呼ぼうとしている。地球を第二の故郷にしようというのだ。
それで、それを阻止するために老師様はやってきた。老師様の後ろに相変わらず傾いた姿勢で着陸しているオンボロUFO、フェラーリ君に乗って、人類を救おうとしている。
なんて高貴な志!と言いたいところだが、どうも話がうさん臭くて、称える気にはなれない。この偏屈なおじいちゃんは、まだ何かを隠していそうだ。
「これで、わしがソラに変身ベルトを渡した理由がわかったじゃろう?魔女メデューサと戦うのは、わしではなくおまえさんということじゃ」
「ちょっ、何よそれ?どうして、わたしが魔女なんかと戦わなきゃならないのよ?」
「これも、定めというやつじゃ」
ウソつけ!とソラは思ったが、次の老師様の言葉にはうならされた。
「それに、パットマンでいる間は授業を受けずに済むぞ。わしがソラの代わりになって、記憶を送信しているだけでいいのじゃからな。こんなに楽な勉強法、他にあると思うか?」
「むむむむむっ」
老師様、痛いところを突いてくるなあ。
ソラは、歯がみをする思いだったが、確かにこんなに楽な勉強法、他にはないだろう。給食を代わりに食べられてしまう点が癪に障るけれど、正直言って、自分で勉強するより授業の内容が頭に入っているのは、ソラも気づき始めていたところだ。
さすがに宇宙人だからね。知能指数とかは、人間よりもずっと上なんじゃない?
「やつらが、次にどんなことを仕掛けてくるか?充実した正規の装備を持っていない分、何をするかわからんから、かえって厄介じゃな。テロリストみたいなもんじゃ」
「相手、二人だけだしね」
「わしと同等の科学的知識は持っとるのだ。あなどってはならぬぞ」
老師様の忠告にうなずきたいところだが、相手が、保健の本能寺先生、つまり、コーモ先生とあっては、いまいちピンとこない。
ソラだって、コーモ先生のことは知っている。もうひとりの教頭は、嫌みな物言いをするいけ好かない男だが、コーモ先生は、ソラにとっても、あこがれの優しい先生だ。いつだったか、ソラが体育の授業で膝をすりむいた時も、痛くないように気を使いながら、絆創膏を貼ってくれた。
よりによって、そんなコーモ先生を魔女呼ばわりしなければならないとは。
× × ×
「最近、ソラご機嫌だね。何かいいことあった?」
地震から一か月以上が過ぎたある日、学校から帰宅する途中で、となりを歩く由衣から率直な質問が飛び出した。
「え?そんなふうに見える?」
「見える、見える。今だって、鼻歌口ずさんでたよ?」
「うそお!無意識のうちに歌っちゃってたのかなあ。わたし、昔からそういうクセあるから。時々、母さんに怒られる」
「ああ、それ、わかるかも」
そう納得しながら、由衣は朗らかに笑った。
以前にも述べたが、由衣は、完全なアウトドア派だ。父親同様、自然保護官になることを目指しつつ、勉強だって怠らない。
海へも山へも頻繁に出かけるから、当然、いつだって日焼けしているのだが、もとが色白なこともあり、遊びまくってる感じはまったくない。彼女にとっての海や山は、遊びの場であると同時に勉強の場でもあるのだ。
一方のソラは、このところ、毎日のようにパットマンに変身し、悪者をやっつけたり困っている人たちを助け続けたりしている。
時には、ひったくり犯を捕まえ、時には、横断歩道で困っているおばあちゃんの荷物を持ってあげたりする。ついでに、おばあちゃんも抱えて、自宅まで無事送り届けてあげたりもした。
木に引っかかった風船を泣いていた持ち主の女の子に手渡してあげた時は、その笑顔に変わる様子を見て、なんだか感極まってしまった。
パットマンは強い!そして、パットマンは優しい!この強くて優しいパットマンが、日を追うごとに町中の人気者になっていったことは、言うまでもない。
空を飛んでいれば、みんなが手を振ってくれる。地上を歩いていれば、サインを求められる。さすがにサインには応じかねたが、アイドルになったみたいで悪い気はしなかった。
そんなわけで、知らない間にご機嫌な顔になっていたのだろう。由衣から指摘されても、そのニンマリとだらけた表情は引き締まらなかった。
「わたし、今、パットマンにはまってるんだよね」
「なるほどね。ソラ、もともと、そういうの好きだったもんね。でも、不思議だよ。あんな映画みたいなこと、本当にあるんだから。弱い者を助けて大活躍じゃん」
「でしょう?パットマンがいれば、悪者は、みんなやっつけられちゃうし、地震だろうが台風だろうが怖いものなし!何でも来いってなもんよ」
「あはははは!まるで、ソラがパットマンみたいな口ぶりだね。でも、本当は、地震も台風も来なければ一番いいんだけどね」
「そりゃあ、まあ・・・、うん、そうだよね」
「もっとも、台風は必要なのか。真夏の暑い時に雨が降らないと木々は育たないし、農作物だって実らないもの」
「・・・・・」
これ、ソラが時々感心させられる、由衣のすごいところだ。
由衣は、自然保護官を目指しているだけあって、学校の勉強だけでなく、本もたくさん読んでいる。そのせいか、ソラには真似できない哲学的なところがあって、そこが小麦色の快活な笑顔と相まって、由衣をとても魅力的な女の子にしているのだ。
「地球って、人間の体と同じだと思うの。風邪もひけば、お腹が痛くなることだってある。でも、風邪をひくのは、体を休めなさいってことだし、お腹が痛くなるのは、暴飲暴食を控えなさいってサインでもあるんだよね。そう考えると、地震にも台風にも、わたしたちにはわからない何かの意味があるのかもしれないね」
ふうむ、ここまで来ると、毎日を能天気に過ごしているソラは、とても太刀打ちできない。
地震や台風に意味があるかあ。もっとも、この前の地震は、老師様によれば魔女メデューサの仕業とのことだし、それ以上の意味はないだろう。
でも、もしも、地球が人間と同じようなものだとしたら、人為的に風邪をひかされたり腹痛を起こさせられたりしているわけであって、とても辛い気持ちになっているに違いない。
「由衣って、おもしろいこと考えるね」
「あっ、やば。もう、これだからやんなっちゃう。わたし、反省してるんだ。話が、つい堅くなっちゃうとこ。これって、親の影響かなあ」
「そんなことないよ。将来、自然保護官でまちがいなしだね」
「やだあ。まだ、そこまで真剣に考えてるわけじゃないよ」
そう否定しながら、由衣は、うれしそうに目を細める。
いやいや、あなたは、きっと立派な自然保護官になって地球のために生きる人生を歩めますよ、由衣クン!
ソラは、ほっこりとした由衣の笑顔に、そう思った。
由衣を見ていると、自然と応援したくなってくるから不思議だ。勉強ができても利口ぶったりしないし、宇宙人や幽霊をこっそり信じているソラをバカにするようなこともない。すごく自然体なのだ。まあ、宇宙人は、実際にいたわけだけど。
けれども、ソラは、そこで気づいた。
そう言えば、わたしも、かなり地球の役に立っているよね?正確には、役に立っているのはパットマンだけれども、変身ベルトの力をある程度自由に使いこなせるようになった今となっては、パットマンは、イコール、ソラと言って差し支えない。
正義の味方っていいなあ。いろんな人から感謝されるし、褒めてもらえるし、勉強だって、老師様に任せておけばいいんだから。うひひ、最高だね!特に勉強のとこが。
いささか有頂天気味のソラではあったが、これも、しかたのないことかもしれない。特に目立ったところもない平凡な一中学生が、いきなり全世界が注目する有名人になったら、どういうことになるか?
しかし、こういう時こそ気を引き締めなければならない。ソラは気づいていないが、この時、魔女メデューサによる次なる計画は、着々と進行しつつあった。
それも、ソラのすぐ足もと。通っている中学校の保健室という、あまりにも身近なところで。